第1回 REPORT

2012.7.28 REPORT

地域にデザインやアートが入り込むとどんなことがおこるのか?

report
片木 孝治 株式会社応用芸術研究所 代表取締役, ソルトデザインA+A 主宰, 京都
佐野 亘 アートディレクター, Refsign代表, 精華大学非常勤講師, 京都
永田 宙郷 プランニングディレクター, EXS Inc., 東京

日本全国で大小さまざまアートイベントが盛んに行われ, デザインによる町おこしなども盛んになっていますが, それらは実際のところ町の人々にどのような変化をもたらしているのでしょう?
それはどのように行われているのでしょう?私たちも何か役に立てるのでしょうか?

2012年7月28日にHOTEL ANTEROOM KYOTOで行われた, 第1回CLASSROOMでは, 「地域にデザインやアートが入り込むとどんなことがおこるのか? 」という問いを立て, 美術系大学の学生を引き連れて福井県鯖江市河和田地区でアートキャンプを指揮している片木孝治さん, 東京の事務所を拠点に各地を巡りながら伝統素材や地域産業のプロデュースやデザインディレクションなどを行う永田宙郷さん, 「地域」「デザイン」「コミュニティー」をコンセプトとしたデジタルとリアルをつなぎ様々な活動を展開する佐野亘さんの3名からお話を伺いました。

皆さんはそれぞれの地域でプロジェクトを行っていらっしゃいますが, そうした地域プロジェクトをどのくらいのスパンの中で組み立てているんですか?

片木:僕は今年の四月から京都とか石川で地域の再生プログラムの仕事を受け始めていて, そこでは僕は20年の計画を提案します。多くの場合, 行政で行われる計画というのは3年とか5年で終わってしまう。
これが経済成長期の計画であれば, 初年度は初期投資をして, 2年目にトントンになって3年目に浮上すると, 経済成長があれば可能なんです。
しかし, これからはゼロ成長, 時には下降することも視野に入れなくちゃならない。
そんな時代の中で僕は, 子どもが成人するまで, 20歳の学生が社会の中心として活躍する40代となるまでという流れを考えて20年という時間を提案しています。

僕は, 地域で行われるプロジェクトは, もっと長い目で人としての当たり前のサイクルの中で行われるよう, 見直す必要があるんじゃないかと思うんです。またこの提案の裏には, 計画を持続させるということの重要性も込められています。
現在はインターネットなどが全盛で, 早さが重要視され, より多く早くと言ったように, 定量的に計れるものに価値があるように言われています。しかしそうではなくて, 僕は定性的な視点から, 価値を見直さなきゃならないんじゃないかと思っています。

もちろん, こうした長い時間をかけたプロジェクトで, 経済の歯車が回っていくのかということを考えると, それはまた別の枠組みで考えなくちゃならないんですが…。
地域で活躍している職人さんの持たれている技術をどのようにプロデュースしてマーケットに載せていくかなど, 消費されていく流れではなくて, もう少し大きい生活の中でのサイクルをつくっていかなければならないと思っているんです。

佐野:河和田アートキャンプは2004年に始まりましたよね, 僕はそこで面白いと思ったのが, その時の卒業生がその場に住みだしたって聞いたんです。それはすごいですよね。

片木:もう6人ほどですね。

佐野:さっきお話しいただいたように, 行政も3年規模で予算が決まってくるじゃないですか。その受け口というか3年間規模の予算枠に対応できる, 河和田アートキャンプっていう仕組みをつくったのも面白いですよね。

片木:これは試行錯誤をしているところで, はっきりと成功しているといえない面もあるんですけど, 行政との取り組みでいうと, 資金面以外にも事務ローテーションっていうのがだいたい3年周期なんですよね。
例えば, 建築資料課にいた人が急に給食センターのセンター長になったりとか, まったく関係のないところに行っちゃうんです。建築の世界でいえば, 最初はつっけんどんに対応される行政の窓口の方も, 3年もたつと設計者の意図を理解してくれることが多い。それが4年目になるといなくなってしまって, また一からということになってしまう。これは悲しいことですがね。

佐野:そこに対応しているのが河和田アートキャンプの凄さですよね。

片木:普通, 事務ローテーションでは不幸しか生まないんですけど。河和田アートキャンプでは, 関わった皆さんが本当に熱心になってくださって, 事務ローテーションの先でどんどんそれを広めてくれるんです。
だから, アートキャンプは文化事業的に捉えられているかもしれないけれど, 実際は文化事業な性格はそれほど纏っていなくて, 農民の促進とか教育, 児童福祉の促進とかそれぞれ行政の仕組みの中にこのアートキャンプは浸透している, あらかじめひとつの巨大な予算で考えるわけではなく, 担当者が変わっていくことで, 小さくて色々な分野のアートキャンプが包括していけると, そういう仕組みになっているわけです。

昔僕は, 既存の社会にある枠組みっているのは, どんどん壊して行ってしまえばいいと思っていたんです。しかし, 会社の中でも社長がいて部長がいるといった仕組みは, 一面では権力的なように見えるんですが, 当事者がやるべきことを理解して動けば, 素晴らしい仕組みとして動くんです。ただ, 今はそれが形骸化していて, 例えば部長になれば給料が上がるから…といったように目的が変わっている。そういうことこそがよくないのではないか, と思うのです。

佐野:結局全部が3年周期で本当に変わってしまうことが多くて, 僕らもデザインの上で苦労しているところも多いんです。

片木:僕は, ひとつのところでちゃんとした取り組みをして, 成果を出す事例や実例がないとこういった世の中の流れは変わらないと思います。だから, 今僕がやっている取り組みはちゃんと続けて完成させたいですね。
ただ, 河和田アートキャンプは, OB/OGに芸術系とかデザイン系の学生が多いのはもちろんなんですが, 実際は31もの大学が参加しているんですね。だから実際は, 工学部や法学部の学生なども参加しているんです。芸術系でないそうした学生が, アートキャンプの後で, 社会のつながりをもう一度つくれるかどうか。アートキャプは形としてはまだ完成を見てはいませんが, 実際にはもう新しいの段階に入っていると思うんです。

永田:片木さんのように, 地域をつなげていく20年というのは素晴らしいスパンだと思うのですが, 僕らのようにモノをつくるのは10年が最適なスパンかと思うんです。たとえば10年前というのはだいたい, 皆さんがしっかりと思いだせる期間ですよね。また, これからこの先, だいたいこれからの世の中を予測できるのも10年くらい。
だから10年というスパンで見れば, 自分達の社会や生活も想像しやすく物という形にしやすいのかなと。これが20年になるともっと, 想像を超えたテクノロジーや変化が出てくるんじゃないかと思ってしまいます。

今漆器メーカーでは, 年に2回の新作発表が求められているんですよ。これが250年前までだったら, 漆器職人は新作なんて7~8年に一回しか作りませんよね。あとは定型を作り続ける訳です。
あと, 子どもが生まれた時に漆器をあつらえて, 次が七五三で, 15~16であれば当時の女性であればお嫁入りで, 新しく漆器をつくる, というようにライフサイクルに合わせた新作づくりであったわけですよ。それがどんどんと流通のサイクルになって, 今度は消費者がコンビニの雑誌置き場と同じで, 行くたびに何かがないとつまらないと感じるようになってしまった。
こうして, 作品が本来素材とかつくり手のサイクルから離れてしまったんです。

そこで僕は, 人の生活に基づいた。10年間使い続けるモノづくりができないかという考えで, 「10 YRS(10 years)」ということをしています。
ターゲットは自分の子供とか友人といった身の回りの人で, きっとこいつは10年後も仲が良いし, 付き合っていけるだろうと思えるような人々のための, モノづくりの実験をしています。
僕は, まずは10年をひとつの単位として考えていって, 個人としての成長というサイクルに向き合ったものをモノというフィールドでやって見ようかと思っています。

片木:20年って10年が2つなんですよ(笑)
今, 僕は学生たちとの取り組みをやっていますけど, 10年経つと学生たちが本当に社会の中で自由に動けるようになってくるんです。さらに10年経てば, 社会の第一線に立てる。そういうことで, 僕は2015年からはOBの社会人, 35歳くらいの子たちと, リスタートをかけたいですね。それを含めて20年と僕は考えているんです。今年で9年目ですから, そろそろその準備もしていかないといけないですね。

そういえば, こういうスパンは昔から地域にあって, お稲荷さんの式年遷移も20年かけてやるんですよね, お宮さんを立ててそこで技術を継承して。そういうサイクルは面白いですよ。

永田:伊勢神宮の遷宮もそうですけど, 導いてくれる人をつくってそれを継がせるとなると, どうしても20年は必要になりますよね。

佐野:僕も今プロジェクトを進めているんですけど, デザインについて大学で教えるようになって学生たちと話すようになった中で, このままだと絶対にいかんなと感じることが多いんです。僕が若いころとかは, 全員がデザインで周りを驚かせてやる, つぶしてやるという感じで取り組んできたんですけど, 今は本当に僕たちも含めて, デザインや人が消費されるようになってきたんです。
このまま消費されるデザインの業界を続けている中で, 後進を育成しても全く意味はないな, と思うようになったんです。来年に僕はひとつの場所をつくるんですけど, そこは本当に後進の育成ためにデザインに向き合う場であったり, 仕事をする場であったり, ひとつ考えているのが, 小中高生のためにデザイナーとしてできるワークショップするための場所にしたいと考えています。今の状態のデザイン・仕事の仕方は間違ってないけれど, あってもいない。そこでは, デザインの仕事はこうだと, 示したいんですね。
これに対しては僕も10年をひとつのスパンとして考えていたんです。

片木:ムラタチアキさんと対談していて, 同じような話をされていましたね。その時は, パッケージデザインの話をされていて, パッケージデザインであっても, 今は, その背景すらも含めたうえでのデザインをつくっていかないと。

佐野:永田さんもそうですけど, そういう消費されるデザインではなく, ライフワーク事業部として割り切っているところがいいですね。食べるための仕事, ライスワークとは明確に区別して。

※ライスワーク:生きるため・食べるための仕事
※ライフワーク:社会のために, 自分や企業の強み・特色を活かして行う仕事

永田:でも面白いことに, やって行くうちに不思議と比率が同じようになるんですよ。
僕は最初スタッフが稼いだお金で, ライフワークをしていました。迷惑かけたな, と思っています。ただ, 企業との仕事は報酬がお金で返ってくるんですけど, 地域との仕事はお金じゃなくて違う還元の仕方なので, 純粋に売り上げでは測れないんですね。とはいえ関わっている案件数で言えば多くなってきているし, 売上としても追い上げています。こうしたこともあって, スタッフたちにも認めてもらいつつありますし, それを見ているスタッフたちも, 今のモノづくりパッケージされて, 商業施設のようにパッケージしてネーミングを付けて, マーケットとして成立させるというやり方をちょっと違うんじゃないかと感じている。まずはグラフィックとプロダクトが気付き始めたんですよ。それで僕のやっていることと同じような提案を, スタッフたちも始めていきたいと言い出してきています。ちょっとずつ意識が変わり始めたという実感はありますね。

佐野:でもそういった仕事のスタイルを持つことで, クライアントも変わっていくし, よい相互関係が生まれてきますよね。

永田:そうですね, 今僕のところには大きなキャンペーンではなく, 小さくてもしっかりと続けていきたいトライアウト事業などの相談が多く来るようになりました。
そうした事業というのは結構, 誰に相談したらいいのかわからないと悩んでいる方が多いんです。だからもし今日ここにきている皆さんの中に, そういうことをしたいと自分で手を上げられる方がいたら, きっと相談したいという方が一杯くると思うんですよ。

皆さん, やはり一度は東京に行った方がいいという考えは持たれているんですか?

永田:東京である必要はないんですよ。とにかく一度, 外に出てみることが必要かもしれませんね。僕も福岡から出たからこそ, 今福岡のために何ができるか, が考えられているんだと思います。実際に, そうした思いを行動に移した時には, 自分の経験を活用していくことになる。それが中にいるだけだと, 目の前にある物しか使えなくなってしまう。
外に出るってことは, その経験を得ることによる差をつけることだと思っています。

皆さんは, 場づくり・コミュニティーづくりをお仕事の一部にされていらっしゃいますけど, それを継続していくために重要だと思われることはどのような事でしょうか。

佐野:極論になるかもしれませんけど, 例えば飲食店も一つの場ですよね。
そこで重要になるのは売上です。お金は絶対に必要な要素なんです。継続していくことはなんでも出来るんです, ただその分お金が必要だ, ということ。また, お金をどのように入手するかも重要なんです。先ほどの「行政の3年間」というものを目標にすると, 3年後には回らなくなってしまうんです。

片木:加えて言うと, お金がどれだけほしいかというのも重要ですよね。
お金に関する価値観を僕らは脱却しなければならないと思っているんです。もう一度豊かさというものを見つめ直さないといけないんじゃないかとも思いますね。

佐野:継続するためのお金は必要ですが, 入手の仕方とか使い方, お金が目的にならないことも重要ですね。

片木:いかに豊かさを育んでいくかも重要なんです。

永田:あとは, その活動が必要とされることでしょうね。自分にとっても地域にとってもメリットがあるイベントだと, 地域の人々が感じてくれれば, お金も落としてくれるし, 人もつないでくれる。まずは, 多くの人が必要としてくれるところまで持っていけるか, というのが第一の関門なんでしょうね。それをクリアしていくと, 運営に必要なものが本当に見えてくるんじゃないでしょうか。
今僕が行っている, 徳島の案件は報酬がストックオプションなんですが, 実は木をもらっているんです。やがて僕が家を建てることになった時には, その材木が山から切り出されてくるんです。そう言う地域ならではの支払い方法があるんですね。また, うちの会社が出すCo2もその山の木でカーボンオフセットされるようになってたりとかね。
そうした地域との共存の仕方, 報酬のあり方などに関して, お金以外の地域ならではの方法があるんじゃないかと思っているんですよ。

片木:僕も福井の漆器屋さんを始め幾人かの方と, 古民家再生機構という活動を始めているんです。古民家をなどの地域資産を建築としての器としてだけ残すのではなく, そこの生活と共に体験できる場として残していきたいと思っています。
今建っている古民家の建材などはもう日本で獲れませんからね。ただ単になくしてもいいのかと思っています。

皆さんが未来のために考えているものはあるんでしょうか。また, どれくらい先の未来までを見据えているんでしょうか。

片木:そうですね, 自分でイメージできるのは5年程度じゃないでしょうか。20年っていうと想像はできませんから, そこは希望的な観測の元で仕事をしていますね。
そういう意味では10年くらいがちょうどいいのでいいのではないでしょうか。

永田:僕は伝統工芸の方や林業の方とお仕事をしていて, そのタイムスパンの長さに驚かされますね。遷宮の木に関しても, ひとつの時間の単位が400年なんですよね。1単位400で計算するんです。彼らは。そうした多彩な時間軸の捉え方があるのを知って, 今は10年くらいのスパンで考えていますが, 400年とは言わないまでも, ゆくゆくは自分の仕事がしっかりと成果が出るまでを予測できるようになりたいですね。

片木:僕は今自分が作っているものが成功するか, ということよりもこの取り組みに関わった学生や意識を共有した人々が, どのような変化・成長過程を経て地域に戻ってくるか, というのが一つの単位になっていますね。
そういう人たちがつながり合って, どんな仕事を始めるのか, その時自分がどうかかわれるかを考えていくのは楽しいですね。

佐野:僕が重要視しているのは, やはり後進の育成ですね。僕はデザインの仕事を始める前に, 10年間の目標を立てていて, 今やっとその目標に近づいてきました。
これからの10年は, 可能であるかは分かりませんが, 京都に拠点を置き, どれだけ京都に還元していけるか, ということをテーマにしていきたいと思っています。
先ほどの, 若手に対するワークショップの開催などもまさにそう。今はまだ, 京都や大阪でデザインをしていた人が, 東京に出ていくという仕組みが残っています。ただ, 今後東京もどう動くかわかりませんし, 僕は東京でやる仕事が京都や大阪で出来ないはずはないと思っているんです。クライアントベースでは東京の方が規模が大きいのですが, 京都でだって仕事は回せるし, 東京に負けない素敵なものが作れる。
僕は今後の10年に関して, 自分のこともしますが, 京都にどれだけ自分の動きを残せるかというのを考えていきたいですね。

撮影:内藤 貞保
会場:ANTEROOM MEALS

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