第7回 REPORT

2014.08.23 REPORT

食を通して考える,都市の暮らしと自然とのつながり

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堀田 裕介 料理研究家, 大阪
廣部 里美 農家,NPO法人百菜劇場 理事,滋賀

物質的な豊かさが満たされるに従い、「作り手の顔が見えるもの」が求められるようになってきた現代。日々何気なく口にしている食材や料理が、自然環境や地域の生産者とどのようにつながっているかを気にかけている方も多いのではないでしょうか。
また、作り手の間にも消費者とのつながりを求め、手間ひまをかけてつくった食物や料理を、自らの手で届けたいと感じる人々が多くなっているようです。
CLASS ROOM第7回目のゲストは、生産者と生活者を繋ぐための活動を展開する料理研究家・堀田裕介さんと、滋賀県近江八幡のNPO法人『百菜劇場』で持続可能な農業を目指す農家・廣部里美さん。農業と自然のことや農業の新たな動き、地域活性の可能性について、お話を伺いました。

司会者:昨年『百菜劇場』で農業体験させていただいた時に、廣部さんが「自分が安全で美味しいものを食べたくて農業をしているというわけではない」とおっしゃっているのを聞いて、とても意外でした。

写真左:堀田さん、右:廣部さん

廣部:私自身は、「農薬に絶対反対!」というわけではないんですよ。良心をもって最低限の量を使うのは仕方がないと思っています。
ただ、大規模な農家だと出荷までに10回以上も農薬を撒くこともあり、そこで野菜を作っている方から「うちの野菜は食べない方がいい」と言われることも。繰り返し散布しているうちに、感覚が麻痺してしまうのだと思います。
私のお友達に、東近江市で無農薬農家を営んでいる片山恵美さんという方がいるんです。

堀田:滋賀県在来種の「水くぐり」という大豆を育てている方ですね。農林水産省が進めている「農業女子プロジェクト」メンバーの方でもある。

廣部:そうです。その片山さんが育てているカボチャが、病気になってしまったことがあったんですね。「このままでは目標収量を達成できない」という状況になって悩んでいたとき、片山さんがこれで農業を続けられなくなってしまうのであれば、「必要最低限であれば農薬を使ったっていいよ」と私は思いました。無農薬で育てていたお野菜が収穫できなかった分、大量の農薬を浴びた野菜が流通するよりもずっと良い筈。でも、そこまで消費者の方に理解してもらうのは大変ですよね。

司会者:無農薬栽培の難しさについて少しお聞かせください。

堀田:家庭菜園の規模だったらできますよ。

廣部:そうですね。野菜は野生のものではないので、やっぱり弱いところがあり、無農薬でたくさん育てるにはとても高い技術がいります。

堀田:例えばお米。苗の間は雑草に負けてしまうので、無農薬で育てる場合は通常よりも大きく育ってから植えます。その場合は田植機が使えないため、手植えするしかありません。害虫も手で取り除きます。とにかく手間がかかるので規模は大きくできませんし、目標収量を達成できないこともあります。

廣部:『百菜劇場』は、生産・収穫ではなく、学び・体験を目的とした場なので無農薬を貫いています。農薬の怖さや、目標収量を達成できるかどうかの不安など、やってみて初めて知ったり、理解が深まったりすることがたくさんありました。

堀田:「子どもたちの遊びの場だから農薬を使わない」という側面もあるのではないでしょうか?

廣部:はい。除草剤が撒かれているかどうかを心配される親御さんは多いですね。子どもたちが安心して、泥だらけになって遊べる場所であるというのも、『百菜劇場』の存在意義だと思います。

司会者:20代〜30代の若手生産者は、昔ながらの農家とどう変わってきているのでしょうか?

堀田:僕たちと同世代の一次生産者は、とても貴重な存在です。昔は、農家といえば作ることだけが仕事でした。しかし現在は、「どう売るか」や「食べてくれる人とどうつながるのか」というところまで考えている若手生産者が多い。だからこそ、野菜の良さを理解する人に、適正価格で買ってもらうことができるんです。都会でシェフをしていた方が農家を始めることがありますが、例えば、珍しい色のトマトや、小さなサイズの人参がレストランで重宝されるといった、売り先のニーズが明確に見えているからやっていけるんですよ。
反対に田舎から出たことがなく、出荷後のことをイメージできないと、価格が市場などに左右されるがままになってしまう。誰に食べてもらうかということを意識した農業が重要だと思います。

廣部:売り先といえば、最近「友達の友達」というような、ちょっとしたつながりから「野菜を買いたい」と行ってくださる方がいます。「地産地消」よりも「友産友消」、つまり友達や知り合い同士で作ったものをやりとりするというスタイルが、今の私の農業には合っているようです。

堀田:僕そういった視点で選ぶ人が増えていますよね。「どこで作っているか」よりも「誰が作っているか」ということが重視されるようになってきていると思います。

司会者:売り方に悩む新規就農の方も多いのでしょうか?

堀田:多いですね。新規就農だと、半数以上が3年以内に辞めてしまうというデータがあります。ただ、お金を介することが全てではない。僕は地域の食材と情報誌を一緒に届ける『四国食べる通信』にレシピを提供しているのですが、ギャラは食材でもらっています。その食材でまたレシピを作り、掲載されるというサイクルなので、仕事というよりも生活の一部になっていますね。お金のやりとりがなければ税金も引かれないですし、今後こういった仕事の仕方は増えていくのではないでしょうか。

□ビワスズキの試食タイム

今回のCLASS ROOMでは、廣部さんが育てた夏野菜と共に、琵琶湖で獲れたビワスズキのソテーをいただきました。
ビワスズキとは、ブラックバスの新しい呼び名。滋賀県では、漁師の方が県からの助成金を受けながらビワスズキの駆除を行っており、そのほとんどは産業廃棄物として処分されています。しかし、もともとは食用として日本に輸入された魚でした。こうした現状に疑問を持った堀田さんは、ブラックバスにつきまとう悪いイメージを払拭するために「ビワスズキ」という名前を考案。捨てるものではなく食べるものとして消費者に知ってもらうための取り組みを行っています。
この日の参加者は、ビワスズキを初めて口にする方ばかり。上品な味わいとプリッとした食感に、会場のあちこちで「美味しい!」という驚きの声が広がっていました。

堀田:イラストレーターやデザイナーといったクリエイターの力を借りながら、ブラックバスのマイナスイメージを変えていこうとしています。これまで、「ビワスズキ」を食べる会のリーフレットや、のぼりを作ってもらったりしました。
今日の料理は、バジルとミントを使ったソースと合わせています。お野菜は、ビワスズキの味が分かるようアッサリした味のラタトゥイユに仕上げました。「泥臭くて食べられない」と思われているビワスズキですが、実は高級レストランで出されてもおかしくない美味しさ。この事実を、獲る側・売る側から一方的に働きかけるだけでなく、消費者の方から「食べたい」という声が上がるように広めていきたいと思っています。今はインターネットを通じていくらでも発信できる時代なので、実際に食べたことのある人からどんどん伝えていってください。

廣部:1年を通して約40種類の野菜を育てています。多品種を育てるのは効率が悪いといわれますが、実際に育ててみることで、たくさんの種類がある野菜の面白さを知りました。今日のお料理に使われているのは、奈良の伝統的な大和野菜であるヒモトウガラシ、今たくさん採れているバナナピーマン。それから、定番の赤や黄色のほか、ゼブラ柄や黒っぽいものなど色々な種類のトマトを持ってきました。

□「百菜キッチン」の加工品販売

「NPO法人百菜劇場」の理事として、また個人農家として農業に取り組む廣部さん。さらに、加工品づくりを取り入れた六次産業化による「小さな農業」を目指し、農産物を加工・販売する「百菜キッチンプロジェクト」を進めています。CLASS ROOMでも獲れたてのお野菜と一緒に、おかず味噌や黄色いトマトを使ったケチャップなどを販売しました。

廣部:ケチャップやドレッシングは、堀田さんにレシピを作っていただきました。六次産業化って、ものすごく大変なんです。日中は畑仕事をして、帰ってきてから事務作業をしたり、「百菜劇場」ワークショップのチラシを作ったり、加工食品の試作をしたり…。これほど農家に負担がかかるのであれば、プロに依頼した方がいいのではないかと思いました。
実際に作っていただくと、やっぱりプロの力ってすごい!と感動。自分で作るものには、やはり限界があります。パッケージデザインも、イラストレーターとデザイナーに依頼しました。プロの力を借りることで、農家の負担を減らし、より手に取ってもらいやすくなると思います。

司会:山田 正江
撮影:後藤 純一
レポート:牟田 悠
会場:恵文社COTTAGE

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